「社長の鶴の一声で、ウチのオフィスもついに『固定席なし(フリーアドレス)』になったぞ!これからは毎日違う景色で仕事ができて、部署をまたいだ交流も生まれるはずだ!」 (……3ヶ月後) 「あれ?結局、経理部のみんなは昔と同じように窓際の同じ席に固まってるし、営業部はドアの近くに座りっぱなしだね。なんか『席が決まっていないだけで、やってることは昔と同じ』になっちゃってない?」
「席を自由に選んでいいですよ」と言うだけのフリーアドレスは、必ず失敗します。なぜなら、人間の心理として「昨日と同じ場所」が一番安心するからです。
そこでいま、最先端のIT企業や外資系企業が導入しているのが、「ただ席をなくす」のではなく、「仕事の内容によって強制的に環境を変えさせる」という「ABW(エー・ビー・ダブリュー)」という働き方です。今回は、総務担当者が絶対に知っておくべきこの最新トレンドを解説します。
ABWとは? 一言でいうと
一言でいうと、ABW(Activity Based Working)は「社員が『今からやる作業』に対して最も集中できる最適な環境(静かな個室、ガヤガヤしたカフェ風ラウンジ、立ち会議スペース、あるいは自宅など)を、自分で自律的に選んで仕事をする働き方」のことです。
これを、「休日の家の中での過ごし方(場所選び)」に例えてみましょう。
「固定席(従来のオフィス)」は、自分の学習机のイスに接着剤で縛り付けられている状態です。ご飯を食べるのも、映画を見るのも、寝るのも、ずっとその「自分の机のイス」でやらなければならず、めちゃくちゃストレスが溜まります。
一方、私たちが休日家でくつろぐときを考えてみてください。 「ご飯を食べるときはダイニングテーブル」「本を読むときは窓際のソファ」「しっかりパソコン作業をするときは書斎のデスク」「寝るときはベッド」と、自分の『今からやること(活動)』に合わせて、自然と一番快適な『場所』へ移動していますよね。
この「活動内容に合わせて場所を変える」という人間にとって最もストレスのない行動原理を、そのままオフィスデザインや働き方のルールに持ち込んだのが「ABW」なのです。
ビジネスの現場での使い方
実際の現場で「ABW」がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。
「形だけのフリーアドレスをやめて、本格的なABWに基づいたオフィス改装を企画します」
- 裏にある意味・意図:
- 「ただ長机を並べて『どこに座ってもいいですよ』というのは手抜きだ。そうではなく、『電話や面談専用の防音ブース』『アイデア出し専用のファミレス席』『一人で没頭するパーテーション席』を用意し、『その作業をするときはそこでやりなさい』というコンセプトのあるオフィス(武器庫)を作ろう」
- 単なる座席撤廃ではなく、「機能性の高い空間設計」への投資。
「ABWを成功させるには、上司のマネジメントスタイルの変更が必須だ」
- 裏にある意味・意図:
- 「部下が『今日は資料作成に集中したいので、1日中奥の防音ブースにこもります』と言った時に、古い上司が『俺の目の届くところにいろ(サボるな)』と怒ってしまうと、ABWは絶対に機能しない。場所ではなく『出てきた成果物(アウトプット)』だけで部下を評価できる自律的なマネジメントが必要だ」
- 空間のハード面だけでなく、上司の「マインドセット(性善説への切り替え)」が不可欠だという忠告。
「今日の午後は企画のアイデア出しだから、ABWを利用して近所のカフェで作業してきます」
- 裏にある意味・意図:
- 「ABWの『自由に場所を選ぶ』というのは、社内(オフィスの中)だけに限らない。クリエイティブな閃きが必要な作業は、会社の無機質な会議室よりも、少し雑音のあるカフェの壁際のほうが圧倒的にはかどるので、会社のルール(制度)を利用して合法的に社外で仕事をしてきます」
- リモートワークや外出を含めた、「一番生産性が上がる場所への究極の選択権」。
「フリーアドレス」との違い
「それって、結局のところフリーアドレス(自席がないこと)のカッコイイ言い方でしょ?」とよく勘違いされますが、目的が違います。
| 比較ポイント | ABW(Activity Based Working) | フリーアドレス |
|---|---|---|
| 役割 | 「その仕事の生産性を爆上げする」ために、意図的に場所を選ぶ働き方(攻め) | 「場所の維持費(家賃やデスク代)を削る」ために、ただ自分の固定席をなくすこと(守り) |
| 例え話 | 勉強は書斎、映画はソファ、睡眠はベッドと「用途に合わせて家の中で移動する」 | 自分の部屋(マイデスク)を奪われ、「毎朝空いているリビングの椅子を早い者勝ちで奪い合う」 |
| 現場での違い | 「集中用」「会話用」など、目的別のバリエーション豊かな家具(ブース)を用意する。 | 普通のテーブルと椅子をずらっと並べて「どこでもいいよ」と放り投げる。 |
見分け方としては、「『空いてる席ならどこに座ってもいいよ(目的はない)』のがフリーアドレス。『今からこの作業をするから、専用のあの机に行こう(明確な目的がある)』のがABW」と覚えましょう。フリーアドレスはただの「仕組み(結果)」ですが、ABWは「生産性を上げるための戦略(原因)」なのです。
まとめ
- ABWとは、社員が「今からやる仕事の内容(Activity)」に合わせて、最も集中して生産性を上げられる「場所(ワーキングスペース)」を自律的に選んで働くスタイルのこと。
- 私たちが家の中で「寝るならベッド、ご飯ならダイニング」と場所を使い分けるのと同じで、オフィス内に「集中ブース」「会話用ソファ」など目的別の空間を多数用意する。
- ただ固定席を奪って早い者勝ちにするだけの「フリーアドレス」とは異なり、上司の顔色をうかがわずに「一番成果が出る環境」を論理的に使い分けるための攻めの制度である。
今日できるミニアクション: あなたのオフィスがABWでなくても、今日から「プチABW」を実践できます。例えば、「ちょっとややこしいメールの返信(頭を使う作業)」を自席でウーンと悩むのではなく、ノートPCを持って「誰も使っていない社内の打ち合わせスペース(あるいは休憩室の端っこ)」に移動して15分だけ作業してみてください。景色が変わるだけで脳がリフレッシュされ、「場所を変える=活動のスイッチが入る」というABWの強力な生産性効果を体感できるはずです。