「社長、我が社の主力製品である紙の学習辞書の売上が、今年も前年比で20%もダウンしました!営業がサボっているせいでしょうか!?」 「いや、営業のせいじゃない。そもそも少子化で子供の数が減っている上に、みんなスマホで検索するようになったから、『紙の辞書』というビジネスの市場自体が消えてなくなろうとしているんだよ……」
「自分たちが悪いわけじゃないのに、なぜかモノが全然売れなくなった」。歴史の長い企業にいると、必ずこの残酷な状況に直面します。
業界全体の顧客やお金がどんどん小さくなって消えていくこの恐ろしい現象を、ビジネス用語で「シュリンク」と呼びます。今回は、縮みゆく絶望の世界で生き残るためのキーワードを解説します。
シュリンクとは? 一言でいうと
一言でいうと、シュリンク(Shrink)は「市場(マーケット)で物を買う人の数や、動いているお金の全体量が減少し、業界全体が儲からなくなって『縮んでいく』状態」のことです。ビジネスでは主に「市場が縮小する」という意味で使われます。
これを、まさに語源そのものである「乾燥機で縮んでしまったウールのセーター」に例えてみましょう。
あなたがビジネスという海に出た時、昔は「めちゃくちゃ大きくてゆったり着られる分厚いセーター(巨大な市場)」でした。例えば、1990年代のガラケー市場や、紙の雑誌市場などがこれにあたります。お客さんがたくさんいて、ちょっと努力すれば誰でも腕を通す(儲ける)ことができました。
しかし、時代の流れ(少子化、ITの進化、コロナなどの環境変化)という乾燥機にかけられると、セーターはギュゥゥゥッと小さく縮んで(シュリンクして)しまいます。 「紙の年賀状市場」や「デジカメ市場」がまさにこれです。セーターが子供サイズに縮んでしまったので、大人の企業がいくら無理やり腕を通そうと頑張っても(新商品を開発しても)、もう絶対に着ることはできません(儲かりません)。 これが「市場がシュリンクする(小さくなる)」ことの最大の恐怖なのです。
ビジネスの現場での使い方
実際の現場で「シュリンク」という言葉がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。
「国内の自動車市場はシュリンクしていくから、早く海外展開しなければ先がない」
- 裏にある意味・意図:
- 「日本では若者の車離れが進み、さらに少子高齢化で人口そのものが減っていく。つまり、日本国内で車を買う人の全体数(パイ)がこれ以上増えることは絶対にない(縮小していく)。だから、今のうちに人口が爆発している東南アジアでお客さんを見つけないと、会社ごと沈没するぞ」
- 縮んでいくセーター(国内市場)に見切りをつけ、大きなセーター(海外・新規市場)を探す戦略の基本。
「市場はシュリンクしているが、ライバルが撤退した後の『残存者利益』を狙おう」
- 裏にある意味・意図:
- 「たしかにこの『ガラケーの修理部品』の市場は、年々小さくなってシュリンクしている。だから大手のライバル企業はみんな諦めて撤退してしまった。でもそれは逆にチャンスだ。ごく一部の『どうしてもガラケーを使い続けたい熱狂的なお年寄り層』は残っているから、ライバルがいなくなった今、ウチが市場を独占すれば意外と利益を出して生き残れる(残存者利益)ぞ」
- シュリンク=完全な絶望ではなく、「小さな水たまり(市場)」でライバルなしの独り勝ちを狙う強かな戦略。
「経費削減のあおりで、今年のマーケティング予算がシュリンクしてしまった」
- 裏にある意味・意図:
- 「市場だけじゃなくて、ウチの会社の財政もヤバい。会社の売上が落ちたせいで、本来なら1億円あったはずの広告宣伝費が、半分に削られて(縮小されて)しまった。限られた小さな予算の中で、どうやって広告を打つか知恵を絞らないとヤバいぞ」
- 「市場」だけでなく「予算」や「組織の規模」が縮小(カットダウン)された時のネガティブな嘆き。
「ブルーオーシャン / レッドオーシャン」との関係
シュリンクとセットで語られることが多いのが、市場の激しさを表す「海の色(オーシャン)」です。今の自分の市場がどれにあたるか整理してみましょう。
| 市場の状態 | シュリンク市場(縮んでいく貧しい海) | レッドオーシャン(血で染まった激戦の海) | ブルーオーシャン(巨大で誰もいない平和な海) |
|---|---|---|---|
| お客さんの数やお金 | どんどん減って小さくなっている | めちゃくちゃあるが、ライバルも多すぎる | これから爆発的に増えるが、まだライバルがいない未開拓地 |
| 例え話 | もう魚がほとんどいない小さな池 | マグロはいっぱいいるが、漁師の船が多すぎてぶつかり合っている漁場 | 誰も知らない、魚がウジャウジャいる秘密の海 |
| 現場の戦い方 | さっさと撤退して逃げるか、ライバルがいなくなるのを待って底引き網で最後の一匹まで回収する(残存者利益)。 | 大金を使って体力勝負(値下げ合戦や大量CM)をして、他の漁船を叩き潰して生き残る。 | すぐに船を出して、ライバルにバレる前に魚を独り占めする(先行者利益)。 |
見分け方としては、「海(市場の大きさ)そのものが蒸発して小さくなっていくのが『シュリンク』。海は大きいが敵が多すぎるのが『レッドオーシャン』」です。シュリンクしている市場でレッドオーシャンのような戦い方(大量の新商品投入など)をすると、魚がいないのにエサを撒くようなもので、一瞬で企業が倒産します。
まとめ
- シュリンク(Shrink)とは、人口減少や時代の変化によって、顧客の数や業界の売上といった「市場のパイ」全体が右肩下がりで縮小していくこと。
- 乾燥機にかけてしまったウールのセーターのように、市場そのものが小さく「縮んで」しまうため、どんなに営業が頑張っても絶対に昔のような売上に戻ることはない残酷な現象。
- 対策としては、「さっさと見切りをつけて新しい大きな市場(海外や別業種)に逃げる」か、「巨大なライバルが撤退したあとに残ったわずかな客を一人占めする(残存者利益)」かの二択しかない。
今日できるミニアクション: あなたの会社の主力製品(またはサービス)を一つ思い浮かべ、グーグルで「〇〇市場 推移」と検索して、過去10年間のグラフを見てみてください。もしそのグラフの線が、乾燥機のセーターのように年々右肩下がりで「シュリンク」しているなら、あなたは超危険な船に乗っています。今の部署でどれだけ頑張っても昇進は厳しいかもしれません。すぐに社内の「新しく伸びている別部署(新規事業)」への異動を直訴するか、成長産業への転職(リスキリング)の準備を始めることが、残酷なシュリンク市場で溺れないための唯一の防衛策です。