「社長!今月も営業マンたちが死に物狂いで頑張って、新しいサブスクのお客さんを1万件も獲得しましたよ!これで我が社も大儲けですね!」 「……バカヤロー!!新規を1万件獲ったって、既存の客が『サービスが気に入らない』って今月1万2千件も解約して逃げて行ってるじゃないか!これじゃあ会社は赤字だ!広告費の無駄遣いだ!」

NetflixやSpotifyなどの動画・音楽配信、あるいは仕事で使うSaaSツールなど、毎月定額でお金を払う「サブスクリプション(定額制)」ビジネスの世界において、絶対に目を背けてはいけない最重要の数字があります。

それが「どれくらいのスピードでお客さんが逃げ出しているか」を示す「チャーンレート」です。今回は、経営者が震え上がるこの恐怖の指標を解説します。

チャーンレートとは? 一言でいうと

一言でいうと、チャーンレート(Churn Rate)は「サブスクリプション(継続課金)型のサービスにおいて、契約している顧客が一定期間内に解約(退会)してしまう割合(解約率・退会率)」のことです。

これを、「底に穴が空いている、水が入ったバケツ」に例えてみましょう。

バケツの中の「水」=「今ウチのサービスを契約してお金を払ってくれているお客さん」です。 そして、このバケツの底には必ず小さな穴が空いており、どうしても毎日少しずつ水が漏れていきます。この「ポタポタと漏れて逃げていく水の量(穴の大きさ)」が「チャーンレート(解約率)」です。

昔の「売り切り型のビジネス(車を1台売って終わり)」なら、漏れる穴を気にする必要はありませんでした。上から蛇口をひねってジャーッと水を入れる(新規顧客を大量に獲得する)だけで勝てたからです。 しかし今の「サブスク」ビジネスではそうはいきません。もしバケツの底の穴(チャーンレート)が大きすぎると、いくら営業マンが必死に上から水道の蛇口を全開にして新規顧客(水)を獲得して入れても、下からドバドバと水が漏れてしまい、一生バケツは一杯になりません(利益が出ません)。

だからこそ、新規契約を取るよりも、まずは「今いるお客さんを怒らせないようにサポートして、バケツの穴を塞ぐ(チャーンレートを下げる)」ことの方が、サブスクビジネスでは最優先のミッションなのです。

ビジネスの現場での使い方

実際の現場で「チャーンレート」という言葉がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。

「今月のチャーンレートが5%を超えている。至急、既存顧客へのサポートを手厚くしろ!」

  • 裏にある意味・意図
    • 「せっかく高い広告費をかけてお客さんを引っ張ってきたのに、毎月5%も解約(ドン引きして逃げられる)されていたら、あっという間に顧客がゼロになって倒産してしまう。営業に新規を取りに行かせるのを今すぐやめて、まずは『今契約してくれているお客さんに対して、使い方の電話サポート(カスタマーサクセス)』を全力で行い、満足度を上げて解約を引き止めろ」
    • 「新規獲得(オフェンス)」よりも「解約防止(ディフェンス)」を最優先せよという非常事態宣言。

「新規顧客を獲得するコストは、チャーン(解約)を防いで既存顧客を維持するコストの5倍かかる」

  • 裏にある意味・意図
    • 「1人の人に『ウチの新しいサービスを買ってください!』とゼロから説得して契約させるのは、CMを打ったり営業マンを走らせたりと膨大なお金(コスト)がかかるんだ。それに比べたら、『今もうすでに使ってくれている人』に、丁寧なメールを送って『ずっと使い続けてくださいね』とご機嫌をとるお金なんてタダみたいなものだ。だからチャーンを防ぐことが一番コスパが良いんだよ(1:5の法則)」
    • なぜチャーンを下げることが利益に直結するのか、というマーケティングの絶対法則の共有。

「ネガティブチャーンを達成できれば、このSaaSビジネスは大成功だ」

  • 裏にある意味・意図
    • 「バケツの穴(解約)を完全にゼロにするのは不可能だ。でも、今残っているお客さんがウチのシステムを気に入ってくれて、『上位のプレミアムプラン(1万円→3万円)』に変更してくれたらどうなる?解約で減った売上よりも、既存客が払ってくれる追加の売上の方が大きくなり、結果的に全体で儲かる(ネガティブチャーン=解約によるマイナスを覆す)状態になる。これこそがサブスクの理想郷だ」
    • 解約防止のさらに先にある、「既存客からの売上アップ(アップセル)」による最強の成長モデル。

「LTV(顧客生涯価値)」との関係性

ビジネス用語で「チャーンレート」と必ずセットで登場するのが「LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)」です。この2つはシーソーの関係にあります。

比較ポイントチャーンレート(解約率)LTV(顧客生涯価値)
役割「どれくらい早く逃げられるか(バケツの穴)」を示す【悪の数字】1人のお客さんが「一生のうちに合計いくらお金を払ってくれるか」を示す【正義の数字】
例え話サブスクのジムに入会したけど、「3ヶ月で飽きて退会しちゃった」ジムの月会費1万円を、「退会するまでの3ヶ月間払い続けた(合計3万円)」
現場での関係性高いと最悪。この数字をいかに下げるか(穴を小さくするか)が仕事。高いほど最高。この数字をいかに上げるか(長く契約させて合計金額を増やすか)が仕事。

見分け方としては、「チャーンレートが『高い(すぐ解約される)』と、当然お客さんが払ってくれる総額である LTV(顧客生涯価値)は『下がる』」という連動した関係にあります。LTV(一人あたりの儲け)を最大化するためには、チャーン(解約)を防ぐことが絶対条件なのです。

まとめ

  • チャーンレート(Churn Rate)とは、サブスクリプション(定額課金)ビジネスにおいて、顧客がサービスを解約して離脱してしまう割合のこと。
  • 「底に穴が空いたバケツ」のようなもので、この穴から漏れ出る水(解約)のスピードが速すぎると、上からいくら新規顧客を入れても利益は絶対に貯まらない。
  • 新規の客を営業しに行くお金の「5分の1のコスト」で、今いる客の解約(チャーン)を防ぐことができるため、サブスク時代の経営においては最も重要視される指標である。

今日できるミニアクション: チャーンレートは、実はあなたの日常生活の中にもあります。あなたが今契約しているサブスク(Netflix、Amazonプライム、YouTubeプレミアム、ジムの見学、家計簿アプリなど)をリストアップしてみてください。そして、「最近全く使っていないから、今月で解約しようかな(自分がチャーンする側になろうとしている)」と思っているサービスを一つ選んでみてください。企業側がそれを防ぐために、引き止めのメールを送ってきたり、解約ボタンをわかりにくく隠していたりしませんか?その「必死の引き止め工作」こそが、企業がチャーンレードに恐怖しているリアルな証拠を学ぶ最高の教材なのです。