「すいません、このブランドの服、いつも『スマホのアプリ(ネット通販)』で買ってるんですけど、今日は『リアルの店舗』に来てみました。ネットで貯まったポイントって、このお店でも使えますカネ?」 「申し訳ございません。当ブランドはオンライン事業部と実店舗事業部が別会社のように分かれておりまして、ポイントカードや購入履歴は合算(共有)できないんです……」 「(ちっ、別の店みたいで不便だな。もう二度とリアル店舗には来ないぞ)」

自社の都合でお客さんの「ネット」と「リアル」の体験を分断してしまうのは、現代の小売業において致命的なダサさです。

この分断された壁を取り払い、「お客さんがスマホを開いても、実際のお店に来ても、すべて同じ履歴とポイントで、まるで一つのお店のようにつながっている状態」を作ることを「オムニチャネル」と呼びます。小売りの究極形態を解説します。

オムニチャネルとは? 一言でいうと

一言でいうと、オムニチャネル(Omni-Channel)の「オムニ」は「すべて・あらゆる」、「チャネル」は「経路(売り場)」という意味で、「企業が持っているすべての販売経路の在庫データや顧客の購入履歴を裏側で完璧につなぎ合わせ、ネットとリアルの境界線をなくすマーケティング戦略」のことです。

これを、「小さな田舎の、超・優秀なスーパーの店長」に例えてみましょう。

昔の都会のバラバラな企業(マルチチャネル)は、ネット担当と店舗担当が一切会話をしないため、あなたがお店に行っても「初めまして。ポイントカード作りますか?」と冷たく言われます。これではただのレジ打ちです。

一方オムニチャネル化された企業は、「田舎の超優秀な店長」です。 店長はあなたのことをすべて暗記しています。あなたが「お店」に行っても、「ネット」で注文しても、「電話」をかけても、電話に出たすべての店員が「山田さん、いつもありがとうございます!先週ネットで買ってサイズが合わなかった靴、うちの実店舗のレジ裏にMサイズをご用意(お取り置き)しておきましたよ!ネットのポイントも今レジで使えますからね!」と神対応してくれます。

なぜなら、「ネットもレジも電話も、顧客データベース(店長の記憶)がすべて裏で一本化されている」からです。「どこからアプローチしても、私のことをわかってくれている(一貫した体験)」という感動こそがオムニチャネルの正体です。

ビジネスの現場での使い方

実際の現場で「オムニチャネル」がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。

「オムニチャネル化を進めて、『ネットで買って店舗で受け取る』仕組みを作れ」

  • 裏にある意味・意図
    • 「今の若者は、電車の中でスマホ(ECサイト)でシャンプーを買い、会社帰りに最寄りの『リアル店舗』に立ち寄って送料タダで荷物を受け取りたがっている。そのためには、ECサイトの在庫と全店舗のレジの在庫(データ)をリアルタイムに連動させる完璧なオムニチャネルシステムが必要だ」
    • 顧客の「欲しい時に欲しい場所で受け取る」という究極のわがまま(利便性)を実現する指示。

「オムニチャネルの最大の敵は、実店舗とEC部門の『社内でのポイント(売上)の奪い合い』だ」

  • 裏にある意味・意図
    • 「システムを繋ぐのは簡単だが、オムニチャネルになると『実店舗の店員がネット通販をおすすめする(店舗の売上がネットに吸い取られる)』という謎の現象が起きる。そうすると店舗の店長が『なんで俺たちのボーナスが減るんだ!』と怒って激しく抵抗する。オムニチャネルを成功させるには、ネットで売れても店舗の評価になるという『人事評価制度』から根本的に変えないとダメだぞ」
    • ITの壁よりも、「社内の部署間の縄張り争い(組織の壁)」が最大の障害であるという経営のリアル。

「オムニチャネルはどこで買っても体験を同一化させ(シームレスに)なければならない」

  • 裏にある意味・意図
    • 「ネットの画面では『超高級ラグジュアリーブランドです』と煽っているのに、リアルの店舗に行ったら『店員がタメ口で、紙袋もペラペラ』だったら、お客さんは『ネットと全然違うじゃん』と幻滅して二度と買わない。オムニチャネルの神髄は、ポイントの共有だけでなく、接客のトーンや世界観(ブランド体験)をすべての売り場で同じクオリティに統一することだ」
    • システム連携(裏側)だけでなく、顧客体験(表側)の統合も不可欠であるという本質。

「O2O(オーツーオー)」との違い

オムニチャネルと似た言葉に、少し前に流行した「O2O(オンライン・トゥ・オフライン)」があります。全く違うので整理しましょう。

比較ポイントオムニチャネル(Omnichannel)O2O(Online to Offline)
役割(目的)「どこで買ってもいいよ。全部裏で繋がってるから」という、世界観とデータの完全な統合「ネットの力を使って、無理やりお客を現実のお店に呼び込む」という、一方通行の誘導
例え話ネットで買った靴の返品を、近くの実店舗のレジでやってもらえる(境界線がない)スマホのアプリで「お店で使える50円引きクーポン」を配り、強制的に来店させる
時代の流れO2Oの一歩先を行く、現在の小売の最新トレンド(OMOとも呼ばれる)スマホが普及し始めた頃(2010年代前半)の、少し古いマーケティング用語

見分け方としては、「ネットからリアルへ『矢印(誘導指令)』が出ているのがO2O。ネットの中にもリアルの中にも境目がなく、『円(一つの空間)』のように溶け合っているのがオムニチャネル」と覚えましょう。

まとめ

  • オムニチャネルとは、ネット通販(EC)、実店舗、SNS、カタログなど、顧客と接するすべてのチャネル(売り場や接点)のデータを裏側で統合し、垣根のない快適な買い物体験を提供する戦略のこと。
  • すべてのレジやサイトが「優秀な店長の記憶」で繋がっているようなもので、「ネットのポイントがお店で使える」「ネットで買って店舗で受け取れる」といった利便性を生み出す。
  • ただアプリでクーポンをまいて実店舗に誘導するだけの一方通行な「O2O」とは異なり、オムニチャネルは顧客データベースごと統合する「企業全体のITと組織の大改革」である。

今日できるミニアクション: あなたがよく行くアパレル(ユニクロなど)や、本屋、ドラッグストアの「スマホアプリ」を開いてみてください。そして、商品の画面に「自店舗の在庫確認(近くのお店にいま何個置いてあるか)」というボタンがあるか探してみましょう。もしあれば、その会社は莫大なお金をかけて「ネットと全国のレジの在庫」をリアルタイムにつなぎ合わせるオムニチャネル化に成功している凄まじい企業です。「当たり前のように便利」という裏側には、企業の血の滲むようなシステムの融合が隠されていることを体感してみてください。