「ウチの新しいスマホアプリ、デザイン会社に頼んでめちゃくちゃオシャレで今風のかっこいい画面にしてもらったのに、全然初回の『会員登録ボタン』が押されないんだけど、どうしてだろう?」 「あー……ボタンの文字が、赤字でデカデカと『今すぐ会員規約に同意して送信する!』って書いてあるからじゃないですか?なんかこれ押したら、一生変なメルマガが届いて後戻りできなくなりそうで、怖くて引いちゃいますよ」
どんなにアプリのボタンの色や形(UI)がかっこよくても、そこに書かれている「言葉」が冷たかったり、威圧的だったりすると、人間は絶対にそのボタンを押してくれません。
この「画面の中のちょっとした短い言葉を工夫して、お客さんのイライラや不安を取り除く技術」を「UXライティング」と呼びます。今回は、デザイン以上に売上を左右する最強の「言葉の技術」を解説します。
UXライティングとは? 一言でいうと
一言でいうと、UXライティング(User Experience Writing)は「ウェブサイトやアプリのエラーメッセージ、ボタンの文字、注意書きなどの『細かくて短い文章(マイクロコピー)』を、ユーザーが迷わず安心・快適に操作できるように親切な言葉に書き換える技術」のことです。
これを、「実店舗への入りやすさを決める看板の言葉」に例えてみましょう。
【昔のライティング(古いお店の看板)】 店の前に「入店契約!ここから先は有料です!身分証を出せ!」という威圧的な看板(堅苦しいボタン文字)が立っています。お客さんは「うわっ、なんか怖そうなお店だな。ぼったくられそうだから入るのやめよう」とUターンして帰ってしまいます。
【UXライティング(親切な看板)】 店の前に「こんにちは!中は空調が効いて涼しいですよ。まずは1杯、無料のお水だけでも飲んでいきませんか?(※いつでもすぐに出られますのでご安心ください)」という看板があります。これがUXライティングです。 「あ、無料ならちょっと入ってみようかな」「嫌ならすぐ帰れるんだな」と、お客さんの心の中にある「失敗したくない」という不安や恐怖(摩擦)を、言葉の力でスゥーっと取り除いてあげるのです。結果的に、たくさんのお客さんがお店に入ってくれる(ボタンを押してくれる)ようになります。
ただの「お知らせ」を、「お客さんが気持ちよく行動できる言葉」に変換する魔法の技術です。
ビジネスの現場での使い方
実際の現場で「UXライティング」がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。
「このエラーメッセージ、UXライティングの観点から見て最悪だからすぐ直せ!」
- 裏にある意味・意図:
- 「お客さんがパスワードを間違えた時に、『エラー:入力規則に違反しています。不正な操作です!』みたいな、専門用語で怒られてるような冷たい文章を出すな!お客さんがイライラしてスマホを投げ捨てるぞ。UXライティング(相手を気遣う言葉)を使って、『パスワードは数字を入れてくださいね。もう一度お試しいただけますか?』と優しく誘導し直せ」
- ユーザーに責任を押し付ける「システム目線の機械語」から、「人間らしい優しい言葉」への翻訳指示。
「ボタンの文字を『予約』から『空き状況を見る』に変えるだけで、UXライティングの効果でクリック率が倍になったよ」
- 裏にある意味・意図:
- 「お客さんは『予約』という文字を見ると、『うわ、これ押したらお金払わなきゃいけないんだ!めんどくさい!』とビビってしまう。でも文字を『空き状況を見る』に変えると、『あ、ただ見るだけならタダだし安心だな』と心理的なハードル(摩擦)がグッと下がるんだ。デザインの色を変えるより、短い言葉を一ついじったほうが圧倒的に売上に直結するんだよ」
- 人間の心理をついた「マイクロコピー(超短い文章)」の凄さの証明。
「ウチのブランドのUXライティングは、すべて『親しみやすい先輩』のトーンで統一(ボイス&トーン)してね」
- 裏にある意味・意図:
- 「トップページは『〜です、〜ます』で丁寧なのに、会員登録の画面に行ったら急に『送信せよ』『必須入力!』ってロボットみたいに冷たくなるアプリ、あるよね。言葉の性格(トーン)がコロコロ変わるとお客さんは気持ち悪いんだ。だから、アプリ全体のすべての文字を『会社で仲のいい一つ上の先輩に優しく教えられている』ような、統一されたキャラ(口調)で書き直してくれ」
- 言葉を通じて「企業のブランドキャラクター」を一貫させる高等テクニック。
「コピーライティング」との違い
「それって、広告のだれキャッチコピーを考えるコピーライターの仕事でしょ?」とよく勘違いされます。
| 比較ポイント | UXライティング | コピーライティング |
|---|---|---|
| 最大の目的 | ユーザーを「スムーズに案内し、迷いや不安をなくして行動(操作)させる」こと | ユーザーの「ド肝を抜き、興味を惹きつけて商品を欲しくさせる」こと |
| 言葉の長し・目立ち方 | スマホの画面のスミにあるような、「短くて邪魔にならない、存在感を消した言葉」 | 画面のど真ん中にドカンと置かれる、「キャッチーで派手な、目立つ言葉」 |
| 例え話 | 「この先、段差があります。足元に気をつけてゆっくりお進みください」という親切な道案内の看板。 | 「そうだ 京都、行こう。」という、心を鷲掴みにして旅行に行きたくさせる魔法の呪文。 |
見分け方としては、「『エモい・面白い』で買わせるのがコピーライティング。『わかりやすい・安心する』で操作のお手伝いをする(エラーを防ぐ)のがUXライティング」と覚えましょう。機能美のUXライティングには、芸術的なセンスではなく「徹底的な優しさと論理」が必要です。
まとめ
- UXライティングとは、ウェブサイトやアプリ内のボタン、注意書き、エラーメッセージなどの短い言葉を工夫して、ユーザーの不安や迷いを取り除く技術のこと。
- 「購入する!」という威圧的な看板を、「まずは1杯、無料のお水でもどうですか(いつでもすぐ出られます)」という親切でハードルの低い言葉のおもてなしに書き換えるのと同じである。
- 派手でカッコいい「コピーライティング」とは異なり、システムのエラーなどで機械的になりがちな画面を「人間らしく優しいトーン」に変換し、ユーザーをストレスなくゴールまで案内する裏方の技術である。
今日できるミニアクション: あなたが毎日使っているスマホアプリ(LINE、メルカリ、AmazonなどなんでもOK)の中で、ふと操作を失敗した時の「エラーメッセージ」に注目してみてください。「システムエラーです。やり直してください」と冷たく突き放すアプリもあれば、「あれっ、通信が切れちゃったみたいです(汗)もう一回だけボタンを押してみてくれますか?」と人間っぽく慰めてくれるアプリもあります。この「イラッとした瞬間にかけられる言葉の違い」こそが、世界中のIT企業が研究し尽くしている「UXライティング」の真髄なのです。