「ウチの新しいウェブサービス、画面のデザインはおしゃれなのに、一番大事な真ん中の『有料会員の登録ボタン』を誰も押してくれないんですよ!」 「うーん……そりゃそうだよ。だってボタンの文字が、でかでかと『規約に同意して月額980円を支払う(課金開始)』って書いてあるから。これ押したら、なんかすぐにクレジットカードからお金を抜かれそうで怖くて押せないよ」 「えっ、でもそれって事実じゃないですか!」 「事実でも、お客さんをビビらせちゃダメなんだよ。ここは優しく『まずは無料で30日間試してみる(いつでもすぐ解約できます)』って書き換えるんだ」
Webサイトを作るとき、企業は「綺麗でかっこいいデザイン(色や形)」ばかりに気を取られがちです。しかし、実際にお客さんの指を動かし、購入のクリックをさせるのは「デザイン」ではなく「相手を安心させる言葉」です。
この、ボタンや登録フォームの周りに添えられる「極めて短いけれど、ものすごい威力を持つ言葉」を「マイクロコピー」と呼びます。
マイクロコピーとは? 一言でいうと
一言でいうと、マイクロコピー(Microcopy)は「WebサイトやアプリのUI(インターフェース)において、ユーザーをガイドし、迷いやストレス(摩擦)を取り除き、商品購入や登録などのコンバージョンを直接的に高めるための、数文字から数行程度の短いテキスト」のことです。※「UXライティング」とほぼ同じ意味で使われます。
これを、「飲食店のメニューのちょっとしたキャッチフレーズ」に例えてみましょう。
【普通のお店】 メニューにただ「大盛りラーメン 1000円」と書かれています。お客さんは「ふーん、ただ量が多いだけか。食べ切れるか不安だから普通サイズでいいや」と注文しません。
【マイクロコピーの天才のお店】 メニューの名前のすぐ上に、小さく赤い文字で「※店長が赤字覚悟で作りました!腹ペコ男子限定のロマン盛りラーメン 1000円(※残したら罰金等のペナルティは一切ありませんのでご安心を!)」と書かれています。 するとお客さんは、「赤字覚悟でお得なんだ!しかも食べ残しても怒られないなら、安心して頼んでみよう!」と心が動き、大盛りがバンバン売れるようになります。
このように、「たった数文字(マイクロ)の言葉(コピー)の工夫だけで、お客さんの心の中にある『損したくない・失敗したくない』という恐怖を取り除き、行動を後押しする魔法」がマイクロコピーなのです。
ビジネスの現場での使い方
実際の現場で「マイクロコピー」がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。
「『今すぐ登録』ボタンの下に、解約のマイクロコピーを必ず添えろ」
- 裏にある意味・意図:
- 「お客さんが一番不安なのは、『会員登録したら、後で退会(サブスク解約)できずにずっとお金を搾り取られるんじゃないか?』という恐怖だ。だから、登録ボタンのすぐ真下に『※縛りなし。使ってみて微妙だったらマイページから1クリックでいつでも解約・退会できます』というマイクロコピーを数文字添えておけ。それだけで安心感が段違いになって、クリック率が倍増するぞ」
- ユーザーの「最大のネガティブ心理」を先回りして潰す究極のテクニック。
「このエラーメッセージ、マイクロコピーが冷たすぎてお客さんが怒って帰るぞ」
- 裏にある意味・意図:
- 「パスワードを入力間違えしたお客さんに対して、『入力エラー:不正な文字が検出されました!』なんていう機械的で偉そうなシステム文章を出すな。お客さんが『こっちが悪いって言うのか!』ってイライラしてサイトを閉じちゃうだろ。ここは『おっと、パスワードの中に記号が混ざってしまったようです。アルファベットだけで直してみてもらえますか?』と、人間らしく共感するマイクロコピーに直せ」
- ただのエラー通知を、「親切な接客」に変える言葉の工夫。
「パスワードの『・』を表示するアイコンのマイクロコピーを変えろ」
- 裏にある意味・意図:
- 「パスワードを入力する時、文字が『●●●』って隠れるよね。その隣に『表示する』って文字を置くんじゃなくて、『👁️(目のマーク)』のアイコンにして、そこに『パスワードを確認する』という短いマイクロコピーを浮かび上がらせるんだ。そうすれば、画面の狭いスマホでも直感的にお客さんが操作できて、ミスが減るから結果的に売上が上がるぞ」
- デザイン(UI)と、短い言葉(テキスト)を美しく融合させる指示。
「キャッチコピー」との違い
「コピー」とつくと、どうしてもテレビCMのような派手な言葉を想像してしまいますが、役割が全く異なります。
| 比較ポイント | マイクロコピー(UXライティングの一部) | コピーライティング(キャッチコピー) |
|---|---|---|
| 最大の目的 | ユーザーの不安や迷いを取り除き、ミスなく最後まで「操作(行動)」させること | ユーザーのド肝を抜き、「なんだこれ!」と強烈に興味を惹きつけること |
| 言葉の置き場所と長さ | ボタンの横、エラーの文字、入力枠の中など、画面のスミにある「数文字」の超短い言葉 | サイトの一番上やポスターの真ん中にある、デカデカとした目立つ言葉 |
| 例え話 | 「この先、段差があります。転ばないように手すりを掴んでくださいね」という親切な足元の看板。 | 「世界中の富裕層が熱狂する、未体験のラグジュアリーリゾートへ」という心を鷲掴みにする呪文。 |
見分け方としては、「『エモい・カッコいい』で夢を見させるのがキャッチコピー。『わかりやすい・安心する』で現実のスマホの操作を手伝う(転ばせないようにする)のがマイクロコピー」と覚えましょう。
まとめ
- マイクロコピーとは、Webサイトやアプリの中に配置される、ボタンの文字、エラーメッセージ、入力フォームの注意書きといった「極めて短いけれど、ユーザーの行動を大きく左右する言葉」のこと。
- お客さんの心の中にある「これ押したらいきなりお金取られるかな?」「入力失敗したらデータ消えるかな?」という見えない不安・恐怖を、たった数文字の思いやりでスッと取り除く役割を持つ。
- ウェブサイトのボタンの色を赤や緑に変えるデザイン修正よりも、ボタンの文字を「送信する」から「今すぐ無料で資料をもらう」というマイクロコピーに変える方が、何倍も簡単に売上(クリック率)を劇的にアップさせることができる。
今日できるミニアクション: あなたが仕事で使っている「Slack」や「Chatwork」、「メールの送信画面」などをよく観察してみてください。入力欄のうっすらとした背景(プレースホルダー)に、「ここにメッセージを入力…」とか「@で人を検索できます」といった、薄いグレーの文字が書かれていませんか?実はこれも、ユーザーが『ここに何を書けばいいの?』と迷わないために企業が計算して配置している「優秀なマイクロコピー」なのです。世の中の使いやすいアプリは、すべてこの「数文字の親切」の塊でできています。