「えっ、鈴木くんが来月で退職するの!?ウチで3年も育ててやったのに、競合他社に転職するなんて裏切り者だ!もうアイツには重要な機密の仕事はさせるな!最終日まで書類整理でもさせておけ!」 「……ええと部長。鈴木くんはウチの業界でめちゃくちゃ顔が広いし、転職先も大手の取引先になるかもしれないのに、そんな冷たいイジメみたいな辞めさせ方をしたら、後でウチの会社が困りませんか?」
「退職者=会社を見捨てた裏切り者」。終身雇用が絶対だった時代の古い会社ほど、辞めていく人への風当たりは冷たく陰湿です。
しかし、SNSで簡単に会社の悪口(口コミ)が拡散され、優秀な人材が出戻り(リファラル採用)する時代において、この「ひどい別れ方」は最悪の経営リスクになります。去りゆく社員をVIPとして笑顔で送り出す設計、「オフボーディング」について解説します。
オフボーディングとは? 一言でいうと
一言でいうと、オフボーディング(Offboarding)は「退職予定者が会社に対する不満を持たずに、スムーズな業務の引き継ぎ、丁寧な面談(本音のヒアリング)、そして温かい送り出しを経て、『この会社で働けて良かったな』という良い体験のまま会社を去ってもらうための一連の手続き」のことです。(新入社員を歓迎する「オンボーディング」の反対の言葉です)
これを、「学校の最高に感動的な”卒業式”」に例えてみましょう。
【古い企業の退職(ただの退学)】 「お前、明日から別の学校に行くのか!絶対に許さん、もう二度と顔を見せるな!机の荷物をまとめて今すぐ出ていけ!」と怒鳴られて追い出されます。その生徒は、一生その学校の悪口を言いふらします。
【オフボーディング(最高の卒業式)】 「君が次のステージ(別の会社)で活躍することを応援しているよ!この学校(ウチの会社)で残してくれた功績は後輩にしっかり引き継いでおく。卒業おめでとう!たまには遊びに来て、ビジネスパートナーとして取引しようね!」と、満面の笑みで花束を渡して送り出します。 その卒業生(退職者)は、外に出てからも「前の学校(会社)、マジで最高だったぜ!」と良い評判を広めてくれる「最強の外部の宣伝マン」や、いつかまた戻ってきてくれる仲間(アルムナイ)になってくれるのです。
ビジネスの現場での使い方
実際の現場で「オフボーディング」がどう使われているのか、よくある3つの場面を見てみましょう。
「優秀なエンジニアが辞める時こそ、オフボーディングの面談で『本音の退職理由』を聞き出せ」
- 裏にある意味・意図:
- 「評価面談では『家庭の都合で〜』と建前を言っていた社員も、もう辞めることが確定しているオフボーディングの最終面談なら『正直、あの課長のパワハラ体制が無理でした』といった『会社から逃げ出した本当の理由』を全部喋ってくれる。この耳の痛いデータこそが、次に残った社員の離職を防ぐための最強のヒントになるんだ」
- 退職者を「会社の組織課題を教えてくれる超・有益なコンサルタント」として活用する手法。
「あの会社はオフボーディングが下手すぎて、退職者が全員アンチになっている」
- 裏にある意味・意図:
- 「社員が辞めるって言った瞬間に、有給の消化を認めなかったり、嫌がらせのように仕事を取り上げたりしてるから、辞めた人間がみんな転職会議やSNSに『あの会社は最悪!絶対に入社するな!』って悪口を書き込むんだよ。結果的に採用活動が全然うまくいかなくなって、自分で自分の会社の首を絞めてるよね」
- 「別れ際の印象」が、その後の企業の採用(エンプロイヤーブランディング)を左右するという恐怖。
「丁寧なオフボーディングをすれば、彼らは将来、自社の『アルムナイネットワーク』で活躍してくれる」
- 裏にある意味・意図:
- 「『裏切り者』として追い出すのではなく、『卒業生(アルムナイ)』として温かく送り出しておけば、彼らが別の会社で出世したあとに自社の商品を買ってくれるVIP顧客になったり、『外で修行してレベルアップしたから、また元の会社で働きたいな(出戻り)』と優秀な即戦力として帰ってきてくれるんだ。だから別れ際は最高に演出するんだよ」
- 辞めた人間を「財産(ネットワーク)」に変える、最高に賢い中長期的な人材戦略。
「リストラ(解雇)」との違い
「それって、要するに会社がクビにする時の手続きのことでしょ?」と勘違いすると、意味が全く変わってしまいます。
| 比較ポイント | オフボーディング(Offboarding) | リストラ(大量解雇・退職勧奨) |
|---|---|---|
| 役割 | 退職という「出会いの終わり」を、「新しい関係の始まり(繋がり)」に変えるための前向きな活動。 | 会社の経営が苦しいため、「人件費を削るため」に一方的に社員との契約を切る事。 |
| 対象者 | 自分で「辞めます(円満退職)」と言ってきた優秀な人から、「クビです」と言われた人まで全員(手続き全体)。 | 主に、会社から「辞めてほしい」と肩を叩かれた人。 |
| 現場でのざっくりした違い | スマホの解約をするときに、「またいつか加入してくださいね、今までのデータはお渡しします」と超親切にガイドされること。 | 会社が潰れそうなので、「明日からもう来なくていいよ、退職金はわずかに出すから」と強制終了させること。 |
見分け方としては、「『オフボーディング』は、社員がどんな理由で辞めるにせよ、最後に会社側が行う『丁寧なお見送りのプロセス(体験)』の名前。リストラは、会社側が一方的に人を減らす『行為そのもの』」と覚えましょう。リストラされる社員に対しても、丁寧なオフボーディングを行うことが炎上を防ぐコツです。
まとめ
- オフボーディングとは、新しく入ってきた社員を歓迎する(オンボーディング)の逆で、会社を去っていく社員に対して行う「丁寧な引き継ぎ、面談、そして感謝の手続き(良い別れの体験)」のこと。
- 「退職者=裏切り者」と冷遇する時代は終わり、「気持ちよく卒業させてあげる」ことで、外の会社に行っても自社の良い噂を広めてくれる最強のファンになってもらうための戦略である。
- 退職が決まった社員への「本音の最終面談」は、自社のブラックな問題をあぶり出し、残った社員の離職を防ぐための宝の山となる。
今日できるミニアクション: もし、あなたの隣の席の同僚が「来月で退職することになった」と告げてきたら、絶対に「裏切り者〜!」と冗談でも冷たくしないでください。「おめでとう!次の会社はどこ?いつか一緒に組んで仕事(ビジネス)しような!」と、全力で祝福し、最終日に気持ちよく送り出してあげましょう。その小さな「最高のオフボーディングの個人的な体験」が、数年後、その同僚が別の会社で偉くなった時に「そういえば、あなたに大きな仕事を発注したくて」と、あなたに圧倒的な利益(幸運)をもたらすブーメランとなって返ってくるのです。